日系多国籍企業の国際戦略と組織変革に関して、現地法人レベルでの資料分析、フィールド調査、また赴任者などへオーラルヒストリーなどを併用し、企業の組織能力の形成や蓄積、組織変革などのプロセスを分析していくことがこの研究の目的である。またこれらの定性的調査で得られた内容をある程度定量的に把握することも目指した。今年度までの研究動向は次のとおりである。旧松下電器海外事業史については保管資料の細部を記録・コピーし、大学内に整理・保管している。資料が多岐に渡り、ディスカッションペーパー作成のために、更なる分析と周辺関連書籍・資料のレビューが必要であり、現在もこれらを作業を進めている。タイトヨタについては今井宏氏のオーラルヒストリーを昨年度作成して、大学で保蔵した。タイトヨタのオーラルヒストリーの内容は現地法人への取材などでも補った(主に昨年度の作業である)。今年度は元ソニーの郡山史郎氏にもオーラルヒストリーを実施した。積水化学の中間膜事業については約2年に渡る企業側資料の分析、関係者へのインタビュー、企業側の了解を得て、今年度ケース論文を刊行することができた。プリンタメーカーA社からの協力も得られ、アジア・インドにおけるオペレーションの詳細なフィールド調査を今年度に約1週間行った。同社については別研究でもブラジルでも調査を行い、グローバルなプリンタ事業の動向を把握した。これらの成果もケース論文として刊行することができた。ASEANの二輪事業の組織変革について、過去から研究してきたものを今年度ケース論文としてまとめ、刊行した。刊行した研究内容は国際学会でもその成果を報告した。また定性研究から得られた分析内容の一部を、アジア地域についてアンケート等で定量的に把握するようにした。リーマンショック以降のアジア地域の回復状況とその中での日系企業の動向についてある程度体系化された情報が得られた。
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