本研究の目的は、組織変革をもたらす個人がいかに育成されうるのかについて、個人の組織適応という観点から、明らかにすることである。 本年度においては、1、これまでの研究成果の整理2、上場企業277社へのアンケート調査とテータ分析3、それら成果の公表・発表を行なった。 1 では、従来の「社会化戦術→個人の態度変化」という分析枠組みに対し、(1)社会化過程で学習される内容を媒介変数として組み込み、(2)しかもその内容を、個人を取り巻く環境に関するものと、従来見過ごされてきた個人特性の自覚など内的学習に区分した。(3)その結果、社会化戦術ではなく、むしろその働きかけによって個人に学習された内容こそが職務態度に影響を及ぼしており、とりわけ(4)環境に関する学習内容は、従来どおりに役割を遂行する行動に、 (5) 自己に関する学習は役割変革活動に影響を及ぼしていたことが示唆された。これら一連の結果は、従来の刺激→反応という枠組みに対する批判的前進であると同時に、変革的行動の規定要因として自己学習の重要性を示唆するものである。 2 においては、分析の枠組みのさらなる精緻化に向けて、社会化戦術と態度変容との間のモデレータ変数として、組織文化が作用しうるか否かを検討すべく、ます、わが国企業組織の文化次元の同定を行なった。この結果4つの文化次元が同定され、さらに、これら文化次元と社会化戦術との関連性が分析・検討された。つまり、変革的人材の育成要因として、変革行動を促す組織文化の影響が当然ながら検討されなけれはならないが、従来の研究ではそれら文化の内容がどう作用するのかについては見過ごされてきていた。本取り組みではこの問題について正面から取り組み、1必すしも文化次元は強い作用は見られなかったが、2文化の根幹をなす経営理念の浸透度は社会化戦術のあり方に対し一定の影響を及ぼしていることが示された。
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