新人に対して行われる組織からの一連の教化施策を社会化戦術と言う。先行研究では、与えられた役割を従順に遂行する人材の育成には制度的な社会化戦術が有効であり、手順に工夫をこらしたり、役割自体を変えてしまうような変革的人材を育成しうるのは、個人的社会化戦術であるとされてきた。 OGAWA(2009)では、しかし、社会化戦術より、むしろどのような知識を教え込まれるのかが重要なのではないかという仮説を検討した結果、やはり、そこで学習された内容こそが関係していることを見出した。 研究者は特に学習される組織文化に注目し、まず企業の組織文化を測定・同定することを試みた。なお、組織文化とはある組織の成員によって共有されている価値観である。小川・大里(2010a)では、上場企業への調査から、進取性等の6次元の組織文化を見出し、これらと社会化戦術との関連を実証した。この結果、物事に積極的、行動的に働きかけることをよしとする価値観(進取の文化)を重視する企業では、制度的社会化戦術が用いられやすいことなどが見出された。つまり、変革志向性を含意する進取の文化ゆえに、企業は社員を積極的に教育するが、同時に、そのような企業では制度的な社会化戦術が採用される傾向にあり、結果として保守的な人材が育成されてしまう可能性があるというジレンマが見出された。なお、社会化戦術と従業員の役割反応との関係を組織文化(進取性)がどのように左右するのかについては、今後の取り組むべき課題として残っている。 一方で、そもそも変革志向の人材はその性格特性に適合的な組織を選択するのではないかという仮説に基づいて、特性的自己効力感(自分が環境に働きかけることができると感じている感覚)の高低と会社の選択との関係に取り組んだのが小川・大里(2010b)であり、自己効力感の高い学生は自身に適合的な社風の組織を希求する傾向にあることが見出された。
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