平成19年度の研究の大きな目的は、技能集約型産業を取り巻くサプライヤー企業群の技術革新とそのフロンティアを解明することであった。技能集約型産業では、工作機械メーカーやCAD・CAMソフトウェアメーカーが生産設備を、素形材メーカーが原材料の供給を行っており、産業競争力を規定する重要な経済主体である。これらのサプライヤー企業群の技術革新プロセスを歴史的に解明するため、工作機械産業に関する既存文献を整理し、技術発展のメルクマールを定めた。 具体的には、金型メーカーの設計技術と加工技術に焦点を絞り、それぞれの代理指標を「加工精度、金型リードタイム、素形材」に求めた。加工精度とは、金型加工の際に追求される最大の、あるいは平均的な精度を指している。金型リードタイムは、製品図面(紙図面、データ、2次元、3次元を含む)の受領後、型図を作成する段階から検収までを指している。素形材の項目には、材質や硬度、メーカー名、品番などが含まれる。硬度の場合には、熱処理との関係も明示している。こうした統一的な指標を基に、日本国内、中国国内の金型メーカーに対する予備的な訪問調査を行った。 技術能力の指標を作成すると共に、技能集約型産業における競争優位の変化に着目し、調査研究を行った。顧客である自動車産業、自動車蔀品産業、電機産業の研究開発過程に深く関与する形で多くの先進的な金型メーカーが競争力を持ち始めており、いわゆるソリューション・ビジネスへの転換が確認された。ユーザーと共有された知識が技能集約型産業の一つの優位性であるが、そうした共有知は、ユーザーとの関係性に基づいているため、環境変化(技術革新や国際化)の影響を強く受ける。本研究の現時点での成果は、コンティンジェンシー理論の再検討を示唆するものであり、組織間関係論における新しい知見の獲得が期待される。
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