本年度は研究ブロジェクトの最終年度であり、これまでの研究成果を整理し、理論的、実証的な側面から示唆を導くことに専念した。昨年度までの研究成果に基づけば、技能集約型産業において、外部環境(技術革新・外国企業の成長)によって取引関係が変化し(系列からオープンな取引関係へ)、その変化が組織能力の高度化(マーケティング志向の導入)を促すことが確認された。 上記のような発見事実を理論的に解釈するならば、「共創的関係と共有知」というテーマにつながる。日本の産業競争力の源泉の一つには企業間関係があり、複数の組織間で共有された知識を新しい製品やサービスの開発に応用できる点が挙げられる。本研究の対象である技能集約型産業は、自動車産業や電機産業の新製品開発活動に深く関わってきたが、「系列」的な取引関係はそうしたイノベーションの創出方法の一類型であった。本研究では、複数の企業間で共有される知識を「共和知」と呼び、その関係性の変化に着目した。系列取引にみられる関係性の深さは、参画している企業の組織能力の向上、知識の高度化と正比例の関係にある。その関係性が、情報技術の進展、外国企業の台頭などにより、よりオープンな取引関係に変化してくると、関係性の幅が広がることになる。つまり、関係性の深さと取引先の多様化との間に、知識の高度化におけるトレードオフを見出すことが出来る。このトレードオフを克服するためには、経営者の主体的な環境への働き掛けや組織内部での学習が不可欠となる。本研究の事例対象企業では、川上工程から川下工程への垂直統合を目指す企業のグループ化や海外展開による関係性の拡大とった企業行動が観察された。「競争的共創」の概念を援用すけば、情報技術の進歩やグローバル化によって製品コモディティ化が進むと、最終ユーザー(消費者)志向、ソリューション提案型へと企業間関係が変化していくと考えられる。
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