本年度は、研究計画の通り、産業集積内部ではない、市場関係者に対する調査を実施した。調査対象は大規模小売ではなく、小規模でかつ、近年の鯖江の好業績企業と関連の深い高級品を中心とした品揃によって成長を実現している比較的小規模の店舗関係者である。 現在、調査データの整理中であるが、産業集積内部のメーカー関係者と市場関係者の状況認知の違い、および商品に対する評価の違いが如実に表れる結果となっている。技術的評価に偏る傾向の強いメーカーに対して、市場関係者の評価はかなり異なった価値軸におかれている。このギャップをうまく埋めることのできている企業が、近年業績を伸ばしていると言える。 また、集積内のなかでも、個人個人の認知範囲はそれほど広いものではなく決して集積全体として機能しているわけではないことがわかってきている。これは従来のフレキシブルな分業と協業を前提としてきた比較的楽観的な産業集積論に対し一石を投じる可能性が高い研究結果である。産業集積はパスディペンデントな結果として集積しているが、その強みや機能は、集積内に立地していることのみに大きく依存するものではない可能性も指摘できる。 また、災害や市場環境の変化によるリスクを回避するため、東海地窯業産業へのコンタクトおよび北海道のIT産業集積への調査準備を開始している。同様に北海道地域の市民活動団体の集積への調査を開始している。これは非営利の分野で比較的情報の流通が期待しやすい市民活動の分野におけるノウハウの流通がどのようになっているかに注目している。産業集積の事例と対比することによって、集積のダイナミズムの解明が期待される。 また産業集積についての本人の過去の業績をまとめ直し、新しいデータセットと手法によって再検討した論文を発表した。都市部におけるネットワーキングについて産業集積への示唆につながる研究発表も実施している
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