本年度は年度当初の6月の早い段階でこれまでの研究結果をまとめ学会発表をおこなった。その結果、隣接分野の研究者と有益な議論をおこなうことが出来た。従来の議論では産地の能力や成果を「技術」や「コスト」などきわめて単純な概念によってとらえてきていた。しかし、ローテクであっても製品サイクルが早く、かつ高度な生産管理やデザインを必要とする産業では、産地の企業と発注側企業の間の密接な相互作用が必要とされており、その研究対象産業における受注獲得能力の実態をより詳細に検討および概念化することが、産業集積の量的な測定においては不可欠であることが本研究によって指摘されることとなった。この結果に従って、定量調査設計を進めている。定量調査においては回収率と有効回答数を高めるため、複数の業界団体と継続的な協力関係を構築していく作業を進めていきたい。 調査面では大きく分けて2点の新しい発見があった。第一に産業集積のメカニズムを明らかにするに当たって、サプライサイドである集積からのデータではなく、発注側に対する調査を進めてきているが、ある一つのトピックについて立場の違う複数の人物にインタビューをおこなったところ、全く正反対の見解が引き出されることになった。これに関連して調査計画の一部が変更を迫られることとなった。 第二に昨今の経済的不況の影響を受けて、産地内部の一部の企業の行動が活性化しつつあり、これまでにない動きが発現しつつあることが観察された。これは長期的に蓄積されてきた産地の技術やコスト構造が、市場の動きと相互作用しつつ短期間に変化する可能性が指摘され、産地の能力を静的にとらえる従来の見方に一石を投じる動きであるといえる。 これらの動きをうけ、研究計画の一部をより発展的に進歩させるため、最終年度前に研究計画の変更と継続申請をおこなった。また、調査上のリスクヘッジのため進めていた関連研究も成果が上がりつつあり年度末に論文として学会誌に投稿をおこなっている。
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