これまでの説得コミュニケーションに関する基礎理論とシステム開発、ならびに実証研究は一定の成果が得られた。企業の債権回収のかかわる会話データの解析を通じて提案手法の有効性を検討し、会話の流れを分析することによって、支払い遅延顧客を説得するコミュニケーションプロセスを明らかにした。例えば、回収率の高いオペレーターは遅延顧客を自らの会話ペースに巻き込むために、会話の流れを変える言葉をタイミングよく使い、会話開始後2-3分以内に具体的な支払い手続きに関する話し合いを始めることが分かった。また、回収率の低いオペレーターは会話の中盤まで状況説明に終始していることが明らかになった。これらの知見をもとに、適切なオペレーターの研修プログラムを開発することができた。その成果は2009年、CRC Pressから"Data Mining for Design and Marketing"の第11章として公刊された。 さらに本研究で開発した会話コミュニケーションのための多次元時系列解析技術を他分野に応用するための基礎研究、発展研究の検討を行った。特に顧客の購買データなどの大規模時系列データへの適用を検討し、既存システムの拡張・実装を試みた。また上記の会話コミュニケーションの成果を国際ワークショップなどで発表し、理論的位置づけを明確にし、今後の発展方向について情報収集を行った。特に会話の定量化について既存研究のレビュー、先端研究の調査を行い、既存研究の拡張が可能かどうかを十分に検討した。これらの調査の中で近年、大きな関心を集めるストリームデータへの提案手法の適用可能性が高いことがわかり、具体的な検討を開始した。
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