近年の韓国や台湾、中国企業の技術的な追い上げは日本企業にとっても脅威として捉えられる程である。特に、韓国の三星やLG、台湾のエイサー、中国の海濔、聯想集団等の世界トップを争う企業群が犇めくエレクトロニクス関連分野においては、次世代をリードする技術やイノベーションを企業内部でどのように構築していくかが重要な課題となっている。したがって、それらの企業群が短期間で急速な技術革新能力を蓄積できたプロセスを解明することは、競合企業としてのイノベーション戦略の在り方を再考させるだけでなく、新興企業において多くの示唆点を提供するものであると考えられる。しかし、これまでの技術普及過程に関する研究は、技術移転を通して先進国企業から発展途上国企業へ拡散されるプロセスとして捉えるものが多く、技術移転以外での技術の普及プロセスや、技術を体化した研究者の移動という側面からはあまり説明がなされていない。更に、研究者の移動は、しばしば先進国や先発企業からの技術の流出という側面から捉えられており、より流動的な労働市場を持ち積極的な人材戦略を展開していると見られる韓国、台湾、中国の企業における企業の行動を説明していない。 企業によるイノベーション能力の構築のプロセスを明らかにするべく、今回は、その事前調査として、以下の3点に焦点を絞った聞き取り調査を行った。(1)国による特殊性、(2)エレクトロニクス企業間の共通性、(3)イノベーション能力と研究者移動間の関係性、がそれであり、調査対象となったのは上記の企業群と各国の経済開発区関係者である。その結果、労働市場の流動性に関して韓国と台湾、中国と差異があること、および、企業が志向する戦略によっても差異があり、それらの差異が更にイノベーション能力と研究者移動間の関係性を規定しているようであることが分かった。今後の調査では人材の移動と組織能力との関係性をより明確にする予定である。
|