本研究の目的は、産業集積の内部で形成されるルール・規範と、産業集積の形成・変容過程で生じているダイナミズムの関係について明らかにすることであった。フィールド調査では、京都の仏具・仏壇産業における分業関係のルール・競争の規鉦と、龍野・三輪・島原の素麺産地の競争の規範について、発見事実を収集した。京都の仏具・仏壇産業では、製造小売店および職人企業が得意分野をもちながらも、棲み分けをはかっていることがわかってきた。また、京都仏具は製造工程において完全分業制度を採用しており、後工程が前工程の技能を監視しており、職人の独立などについても独自のルールが存在している。一方で、素麺産地の比較研究では、龍野・三輪・島原の各産地の組合などを訪問し、また組合の資料などを収集する中で、各産地は同じ素麺をつくりながらも、産地によって組合のマネジメントが大きく異なっていることが明らかとなってきた。 以上のフィールド調査の発見事実からは、産業集積では、分業関係のあり方、競争の規範などが歴史的につくられてきた経緯があり、単純に他の産地を模倣できない事情があることがわかってきた。特に、素麺組合のマネジメントでは、製造・販売に関して一致結束していけるかどうかがポイントとなるが、歴史的な経緯もあり、アウトサイダーが生まれ価格競争が激化することで衰退傾向にある産地と、一致団結して高価格・高品質を維持していくことで活力を維持している産地がある。先行研究では、産業集積における競争のあり方について十分に検討されておらず、本研究では、競争のあ方を通じて、歴史的な産地の興亡が明らかになってくる可能性があると考えている。このような結果を踏まえ、年度は、さらにデータの収集に努め、さらなる検討を進めていきたい。
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