研究概要 |
今日,交通分野での選好意識調査の回答形式の主流は,被験者に複数の仮想の代替案から最も望ましいものを選択させるという「選択」形式である.しかし,筆者らは,仮想評価法(CVM)の手法を援用し,1段階目の「選択」形式の回答に応じて異なる2段階目の「選択」形式を提示するダブルバウンド形式や1.5バウンド(1.5B)形式の質問を用いることでモデルの推定精度が向上することを実証した. 本年度は,その発展可能性が高い1.5Bデータを用いた基礎分析を行うことを目的とした.分析には,主に,京阪神都市圏の出勤時の自動車・公共交通選択行動を対象とした1.5Bデータを用いた. 特に,1.5Bの1段階目と2段階目の回答のモデル化に着目し,両段階の回答が非同一の効用関数で表されると仮定した2変量プロビット(BP)モデル,および,両段階の回答が同一の効用関数で表されると仮定したインターバルデータ(ID)モデル,を検討した.BPモデルは,効用関数の相関の有無,効用関数中の慣性項(現在の利用交通手段を仮想状況下でも選択する慣性)の有無の組合せ4種類のモデルを構築したIDモデルは,慣性項の有無,参照点(仮想の所要時間等を現在の所要時間等との差として表現)考慮有無の組合せ4種類のモデルを構築した.分析の結果,BPモデル(相関・慣性項考慮)が最も良好な推定結果を与えるという知見と,BPモデルの相関と慣性項,IDモデルの慣性項と参照点の考慮が推定結果に与える影響に関する知見が得られた. 同一の仮想状況が1段階目,2段階目で提示された場合の回答に有意差はなく,CVMで指摘されるバイアスは深刻ではないと示唆された.1段階目の回答のみ,2段階目の回答のみを用いたモデルを別々に推定したところ,両モデルの等価性は仮想状況の設定に依存する可能性も示唆された.
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