本年度は当初の計画通り、理論的に導出された命題を再解釈するために企業現場の観察を実施し一定の成果を上げることができた。成果の一部は、学会報告および学会誌掲載論文として19年度中に公表している。以下に研究実績の詳細を示す。 19年度はグローバル戦略製品の開発とマーケティングを遂行する企業組織の実態について事例研究を行った。対象はグローバルな活動範囲を構築している多国籍企業の事業部とした。具体的には住友スリーエム社の自動車産業システム事業部および文具・オフィス事業部、日本ヒューレット・パッカード社のデスクトップ事業部、そして資生堂の中国事業部である。合計約20回を数えるインタビューおよび現地訪問調査(工場、研究所、販売現場等の観察)を通じて多くの有益なデータを入手することができた。尚、調査においてはケーススタディの方法論を十分に吟味し、学術的に頑健性を伴ったデータの収集に努めた。 入手したデータは、グローバル市場全体において立地に関わらずその有効性を発揮する要素技術(部材、コンポーネント)と現地国市場ごとに異なる要請を高い次元で統合した製品群を開発、生産、販売するためには、調査者が提唱する「グローバル・マス・カスタマイゼーション能力」が大きく貢献していることを示している。とりわけ、グローバル製品群の開発あるいは改良、マーケティング活動を効果的かつ効率的に遂行するには、本社一子会社間のマーケティング部門間における緊密な調整行動が大きく貢献していることを発見することができた。
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