本年度は、19年度に獲得した企業現場のデータを踏まえ、分析フレームの再構築に取り組んだ。成果の一部は学会報告および論文として20年度中に公表している。また成果の一部は21年度に学会等で報告予定である。以下に研究実績の詳細を示す。 19年度はグローバル戦略製品の開発とマーケティングを遂行する多国籍企業組織の実態について事例研究を行った。20年度はグローバル製品の販売現場調査(中国と米国)と19年度のデータに基づき、分析フレームの再構築に取り組んだ。とくに注意したのはグローバル製品化を「プロセス」と捉えて、その組織デザイン、制度、しくみなどについて関連分野の先行研究を整理することに努めた点である。そこで浮き彫りとなったのは、グローバル製品化プロセス(製品の開発あるいは改良、製造、マーケティング活動の動的活動)には、本社-子会社間のマーケティング部門間における緊密な「調整行動」と「マーケティング部門主導の各部門間の活動調整」が大きく貢献しているという発見である。また、グローバル製品化プロセスの経営成果は、単なる世界市場での販売(市場成果)にとどまらずに、多国籍企業組織における組織アイデンティティの醸成、子会社コミットメントの向上などの組織成果にまで及ぶことが推論された。これらの研究成果は21年度に複数の学会等において報告予定である。海外に向けた情報発信の機会も得ている。この分野は世界的に見ても研究成果が数少ない。研究成果を広く世界に問い、さらなる研究の発展を目指したい。 しかし、一方で本研究は当初の研究計画に沿った成果を必ずしも修めていない。とくに定量的実証研究にまで、作業がいたらなかった。企業現場のデータの収集、整理、解釈に没頭し、分析フレームの再構築に予想以上の時間を費やした。理論構築を目指してこの点については今後の課題としたい。
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