本研究の目的は、スイッチング・コストをともなう市場における企業の価格と製品面でのダイナミックな競争を分析することである。1年間の研究を通じて得られた結果は次の通りである。まず、本研究課題に関連する既存研究を幅広くサーベイした。そして、その中でbehavior-based price discriminationという価格戦略に着目して調査を行った。このサーペイをもとに、消費者の行動べースに対する価格差別を通した企業間競争をダイナミックに分析するための理論モデルを構築した。既存研究では価格差別を企業戦略として考慮することができず、価格差別が実施される場合と実施されない場合を比較する場合が多いのに対して、本研究では価格差別を所与とせずに、企業が価格戦略として実施如何を選択できるモデルを考案した。そして、2つの企業が各々第1段階において差別価格か単一価格かの価格政策を選択し、第2段階において後期(成熟期)における製品価格を選択するという2段階非協力ゲームを構築した。 その結果、企業が選択する差別戦略は初期(成長期)のマーケット・ソエアの水準に依存することがわかった。そして、2つの企業の間に初期のマーケット・シェアに大きい差がある場合には、両企業とも価格を差別し、新規顧客を優待することが均衡として選ばれた。この結果は日本の携帯電話市場の現状と合致しており、企業がなぜ新規顧客に対して端末機を原価以下で販売する戦略を選択するかを理論モデルで明らかにしている。この結果に基づき、最近の動向である「O円携帯の廃止」が企業や消費者にどのような影響を与えるかを分析することがこれからの課題である。
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