本研究の目的は、スイッチング・コストをともなう市場において、価格と製品面でのダイナミックな企業間競争を分析することである。平成20年度の1年間の研究を通じて得られた結果は次の通りである。まず価格戦略に関して幅広く調査した既存研究のサーベイをもとにして、独自な理論モデルを構築した。すなわち、ハードウェアとサービスからなるシステム製品を(垂直)統合的に供給する2つの企業を対象とし、価格差別を通じた企業間競争を分析した。各企業の提供するハードウェアとサービスは企業ごとに非互換であり、消費者が別の企業にスイッチする場合には新たにシステム製品を購入しなければならないため、スイッチング・コストが伴う市場を想定した。 1期間2段階におけるモデルを構築した結果、成熟期における製品販売において、全企業が顧客の購買履歴に応じて価格を差別する場合が一つの均衡として求められた。その反面、マーケット・シェアに応じては両企業とも価格を差別しない場合ももう一つの均衡として求められたため、混合戦略としての企業の選択確率の均衡値を計算した。その結果、企業は価格差別を確率的に高い頻度で実施することが分かった。この結果は、携帯電話市場等における企業戦略の実態と整合している。特に、日本において端末機の割安販売を抑制しようとする政府の政策が未だに企業によって受け入れられず、依然として顧客誘引のための激しい価格競争が起きている現状を理論分析によって明らかにした。
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