平成20年度は、前年度の成果を論文としてまとめるとともに、同種の問題意識を共有する他の研究者のとの共同研究発表を行った。また、前年度同様、文献研究と並行して事例研究も行った。 論文「新製品の普及過程における消費者行動-類推研究の再考と新製品普及のマーケティング戦略-」においては、今日のデジタル家電と呼ばれる製品群の普及過程における消費者行動を捉えるためには、認知心理学の視点から、とりわけ消費者が記憶の中に保持する内部情報の多様性に注目する必要があるとの問題意識を設定した上で、分析枠組みとして類推プロセスを用いて、新製品に対する消費者行動の理論枠組みの構築を試みた。消費者行動研究における類推研究や、認知心理学における類推研究をレビューしたのち、その問題点を指摘し、カテゴリー化という観点から新たな類推のプロセスの提案を行った。この新たな類推プロセスに基づいて新製品普及のマーケティング戦略へのインプリケーションを提示し、企業が新製品を広く市場に普及させていくためには、消費者が保持する内部情報の態様の多様性に柔軟に対応したマーケティング戦略が必要であることを示唆した。今後の課題として、本論文の理論枠組みが検証される必要性が挙げられた。 研究発表においては、「既存製品の知識転移に基づくIT製品の採用-なぜ採用前に操作できそうだと確信できるのか」というタイトルで、本研究の成果を応用しながら、新製品がもつ新しいインターフェイスを消費者がいかに既存の知識から類推を行いながら理解するのか考察を行った。 事例研究については、薄型テレビ、シャープ・アクオスのマーケティング戦略を取り上げ、新製品としての薄型テレビを消費者が購入する際に、いかに既存知識を適用しているのかということについての考察を行った。
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