研究概要 |
研究課題における鍵概念であるフィードフォワード概念について,当年度も国内外の文献の収集と検討を進めたが,欧米ではとりわけバランス・スコアカード論において関心を集めていることが確認できた。我が国企業における管理会計のフィードフォワード化の象徴的な現象である原価企画の形成過程に関しては,引き続き文献収集と聞取調査を続行し,自動車産業においてはトヨタ自動車とほぼ同時期に日産自動車でも原価企画の取り組みがなされていたことを確認し,また家電産業は自動車産業よりも古くから複数の事例を認めることができ,最も古い事例として1953年頃に松下電器で原価企画の取り組みが確認されること,他にも日本コロムビア,日立製作所,東芝といった企業が1950年代半ばから原価企画を実践していたことを確認できる資料の発見にいたった。さらには,これらの発見事例の相互関係を確かめるべく,文献収集と聞取調査を実施した結果,自動車産業における自動車技術会のような業界内の勉強会や,日本能率協会や日刊工業新聞社などが主催した設計管理に関する業種横断的な講習会などの場で,これらの企業が相互に交流していたことが分かり,実際に原価企画実践が伝播した史料的証拠についてもいくつか入手するに至った。以上の内容について,日本会計研究学会と日本原価計算研究学会にて研究報告し,査読付き学会誌への投稿権利を得た。トヨタ自動車の事例を除いては,原価企画に取り組むに至った詳しい経緯を確かめ得る資料の発見には至らなかったが,管理会計のフィードフォワード化のメカニズムや歴史的経緯の一端を解明できた。
|