わが国法人に対する会計規定には、債権者保護を目的とした商法、投資家保護を目的とした証券取引法、公平課税のための法人税法があり、これらが併存する様をトライアングル体制と呼んできた。ところが近時、金融商品取引法の制定や投資家重視の会社法が制定されたように、コーポレートガバナンスに資する企業法の構築が求められ、一種のパラダイム転換が起きている。しかしこの流れの中で、もう一極の会計規定である法人税法は時代の要請から取り残され、経営者(納税者)モラルについての規定が無いと考えられている。また納税は強制的であるため、納税者にモラルを云々する余地はないとか、法人税法が単なる税金計算の枠組みを提供するだけの法律であるため、納税者のモラルを議論する意味はないと考えられているようである。 しかし、納税という特定の経済活動には、租税法という特定の枠組みが存在し、青色申告法人や適格といった条件に合致した者が、適正な納税という期待に従い、その中で自由に経済活動を営むという実態がある。そのように観てくれば、法人税法が単なる税金計算の枠組みを提供するだけで、同法における納税者の役割とそれた対する期待が存在しないとは言い切れなくなる。したがって法人税にせよ所得税にせよ申告納税である限り、公平課税を行う上での行儀の良い納税者のモラルが問われていることには疑いがない。逆説的に考えれば、全ての税金が賦課課税形態によって課税側で一方的に決定されるのであれば、納税者のモラルが問われる余地は極端に少なくなる。 そこで本研究は、租税法領域においても納税者に対する広義のモラル規定が存在すると考え、法人税法の役員給与規定と納税者(中小法人)の行動を観察対象とし、納税者行動に与える規範の実態を実証研究によって明らかにした。この分析の結果、法人税法が特に中小法人のコーポーレートガバナンスに貢献する可能性を示唆し、中小法人のモラル規制の一方途として、税法の活用が有意であることを提言している。このことから本研究の成果は今後の税制改正に有益な新知見を提供するといえる。
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