平成19年度から20年度にかけて行った企業の人事担当者に対するインタビュー調査、および私が参加した他機関での実態調査を通じて、効果的な業績管理に向けては、業績評価と成果主義的報酬を通じた動機づけとともに、有為な人的資源の獲得・開発が重要な役割を果たしていること、並びにそこでの会計情報の利用の実態が明らかとなった。加えて、研究実施計画に記載の通り、平成20年度より日本会計研究学会スタディ・グループのメンバーとして活動する中で、インタンジブルズとしての人的資源の開発とその戦略への整合、企業業績・企業価値向上への貢献という研究視点を得た。 そこで平成21年度においては、他の組織要素を含めた、成果主義に係わる新たな業績評価制度についての規範論的検討、モデル化という当研究課題の目的を果たすべく、戦略実行に向けた人的資源の獲得・開発と整合した、「統合的業績管理システム」という概念を提示して、そのモデル化に研究のフレームワークを拡充させた。そして、これまで企業実務、学術研究において分断されてきた人事管理と業績管理それぞれに関して、戦略的人的資源管理の諸研究と、インタンジブルズの管理を視野に入れた業績管理の諸研究を並行的に検討し、統合的業績管理システムの意義とモデル構築に向けた研究上の諸課題について明らかにした。これらは、戦略設定、人材開発、業績評価、報酬付与といった、企業における人事管理制度と業績管理制度との整合性維持と、それによる戦略の実行、企業業績・企業価値向上への協働的貢献に向けたシステムについての初めての体系化の有力な足掛かりとなるものと期待できる。
|