本研究の目的は、利益の構成要素の情報内容について、分散分解アプローチを用いて実証的に検討することにある。このことによって、利益情報の役割・機能をこれまでよりも深く検討し、理解することを目的とする。 このような目的を達成するために、本年度においては、第一に、現行の日本の損益計算書を念頭におき、営業利益、営業外損益といった利益の構成要素によって、どのように情報内容が異なるかを比較検討した。このような研究は、従来からしばしば行われているが、これまで分散分解アプローチを適用した研究は存在していない。この研究論文は現在、原稿が完成したものの、本報告書作成時点において公表には至っていない。 また、第二に、連結利益を親会社利益(単独の利益)と子会社利益(連結利益と親会社利益の差として定義)に分け、その相対的な情報内容を検証した論文"An Evaluation of the Relative Importance of Parent-only and Subsidiary Earnings in Japan : A Variance Decomposition Approach"(日本企業の親会社利益と子会社利益の相対的な重要性についての考察 : 分散分解アプローチ)(共著)を完成し、専門誌に投稿中である。この論文は現在、改訂要求に回答している段階であり、本報告書作成時点において公表には至っていない。 さらに、研究を進めるにつれ、実証分析の基礎としての理論モデルの開発が重要であると考えるに至った。具体的には、しばしば分散分解による実証分析の基礎を提供するマクロ経済学のモデルを参照して、経営者の利益マネジメントを考慮した上での利益のダイナミックスについての理論モデルを展開した。この研究成果は、下記の平成20年度の研究成果である学会報告と、「利益マネジメントの動学モデル」と題する論文である。
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