本研究では、まず自律的組織における意思決定問題やコントロール、そしてプロセスの可視化についての論点を整理し、それらの有効性を明らかにしたいと考えている。さらに、意思決定環境の変化との関連で原価計算に求められる役割期待(プロセスの可視化、活動別増分原価情報の提供、およびミクロ・マクロ・ループ)についても、文献研究および事例研究を通じて十分な検討を行う。 本年度はとくに、会計的なミクロ・マクロ・ループに着目した。自律的組織では、トップ・マネジメントから中級管理者、現場管理者のみならず現場作業員に至るまでの各階層で様々な種類の意思決定が行われている様子を観察できる。そして、各組織構成員は自ら考え、行動・作業している。これは、現代の企業組織における意思決定の範囲・概念が拡大したのと同時に、意思決定をする人々の範囲が拡大したことを意味している。このような意思決定環境の変化に伴い、自律的組織における様々な意思決定を支援するべく原価計算に求められる役割期待が変化していることを指摘できる。 また、従来の継続的改善活動を支援するための会計システムの不備や、トヨタにおける原価管理の進化について取り上げ、各種の意思決定を行う現場に財務情報を提供するためには、因果関係を追究した精緻で正確な原価計算システムが不可欠であることも明らかにしている。しかし、ただ日々の活動そのものや微細な改善活動の効果を測定することができるだけではなく、さらに原価計算システムは重層的なミクロ・マクロ・ループを有するトータル・システムの一翼を担うように構築される必要がある。これによって、全員参加の経営を促して組織を活性化させることにも貢献できる。
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