本研究課題では、まず自律的組織における意思決定問題やコントロール、そしてプロセスの可視化についての論点を整理し、それらの有効性を明らかにしたいと考えている。さらに、意思決定環境の変化との関連で原価計算に求められる役割期待(プロセスの可視化、活動別増分原価情報の提供、およびミクロ・マクロ・ループ)についても、文献研究および事例研究を通じて十分な検討を行っている。 とくに平成20年度は、会計的なミクロ・マクロ・ループに着目し、財務会計と管理会計との整合性と結合部分について検討した。管理会計と財務会計との整合性を分析することは、会計的なミクロ・マクロ・ループを構築する上で大きな意味をもつ。例えば長期請負工事契約下で工事進行基準を適用する場合には、個別原価計算に進捗度の概念が不可欠であることを指摘し、活動基準原価計算(ABC)を用いた活動基準分析による戦略的マネジメントの必要性を明らかにした(『会計論叢』に公表済)。 その他、外国文献において、自律的組織に関する議論およびそのマネジメントに適切なミクロ.マクロ・ループに関する議論を精査した。中でもSimons(1990)およびOldman & Tomkins(1999)の見解によると、より厳しい経営環境の下では、企業家的な戦略を策定・実施している自律的組織のような組織が有効に機能することが主張されていた点は、大変興味深い。しかしながら一方では、ミクロ・マクロ・ループに関する議論が欠如していたことも指摘できる(平成21年度中に2編が刊行予定)。今後も適切なミクロ・マクロ・ループを形成するための試案を模索する必要があるといえる。
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