本研究課題においては、自律的組織における意思決定問題やコントロール、そしてプロセスの可視化についての論点を整理し、それらの有効性を明らかにしたいと考えている。そのために、意思決定環境の変化との関連で原価計算に求められる役割期待(プロセスの可視化、活動別増分原価情報の提供、およびミクロ・マクロ・ループ)についても、文献研究および事例研究を通じて十分な検討を行った。 とくに平成21年度は、どのような情報が組織内の意思決定に適切であるのかという観点から、近年の製品原価計算の研究動向と、マネジメント・コントロール・システムにおけるABCの位置づけに焦点を当てた。まず製品原価計算の研究については、組織の様々な意思決定に役立つ基礎的原価データを提供する製品原価計算システムが具備すべき要件について検討し、TDABCやLabro等の所説から有用な示唆を得ることができた(『会計プログレス』に投稿済・再査読中)。 一方、自律的組織のマネジメント・コントロール・システムにおいては、適切なミクロ・マクロ・ループを形成するために、ABCがいかなる役割を期待されているのか、Cooper & Turney(1991)、Kaplan & Cooper(1998)、Simons(2005)の所説を中心に検討した。しかしながら、それらの見解によると、自律的組織が有効に機能するために不可欠な「適切なミクロ・マクロ・ループ」を形成するための条件が十分には検討されていなかったことを指摘し、ABC情報を司る会計担当者、コミットメント、および「場」の概念が重要であることを提示した(『原価計算研究』に投稿・受理済)。
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