本年度は、財務会計における負債・持分の区分に関する問題領域について、現在の国際的動向を踏まえ、問題の全体像を明らかにした。現在、国際会計基準審議会を中心に、金融商品会計に係る当該問題が論じられており、その中で、従来までとは大きく異なる持分概念が提案され、その一方で負債は残余と定義される傾向が見られる。本年度はこうした動向を明らかにした。そして、負債・持分の区分のあり方は、負債の定義と持分の定義の組合せで決まるが、会計の利益計算構造全体の問題として考える必要があることを論じた。 つぎに、負債概念の定義のあり方について検討した。これまで負債概念は、資産を引渡す(または用役を提供する)義務と定義されてきた。そのため、新株予約権やストック・オプション等の、自社株式を交付して決済する義務は、負債に該当せず、持分であるとされてきた6これに対し、本研究では、上述の負債の定義に照らし、株式を交付して決済する義務については、株式交付に伴う資産請求権を放棄することを要求する義務は負債になると論じた。他方、株式交付に伴う資産請求権を放棄せず、株式交付によって資産を受け入れることを要求する義務は、資産の犠牲を要する義務とは言えず、しかし株主の請求権とはいえないため持分でもなく、結果的には収益となると論じた。 そして、持分概念に関する検討の一環として、株式交付費の会計処理について検討した。株式交付費に係る会計処理には、費用処理、資本控除処理、繰延資産処理とあるが、本研究では、株主と会社との関係に対する捉え方によって結論が異なることを明らかにした。とくに、株主の立場からすれば、株主が株式を取得するのに個人的に支払うべき費用を会社が肩代わりしていると見なしうる部分を、会社が立替えている(または預かっている)と見なして会計処理すべきことを明らかにした。
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