本年度は、昨年度に実施した開示事例からの分析結果を更新し、雑誌原稿として3本まとめた。また、本年度に特に注力したのは、ストック・オプションの実施と株価形成に関する研究である。昨年度に収集したデータを元に、ストック・オプションの実施アナウンスに関する株式市場の反応をイベント・スタディの手法により検証した。 同研究には、(1)導入しているか否かではなく、個々のスキームにまで踏み込んでいる点、(2)適時開示情報を利用し、具体的内容が明らかになるタイミングもイベント日とした点、(3)昨今の多様な運用状況を反映するため、新株予約権制度が導入されて以降のサンプルを用いた点の3つに特徴がある。分析の結果、全体的な傾向として、発行数の上限や内容の概要が開示されるDate1ではイベント日前にARが減少し、イベント日後に回復するというリバーサル現象が見られた。一方で、対象者、個数、付与日、条件などが確定するDate2のARの推移にてイベント日前に減少する傾向が見受けられ、その後も株価が下がり続けていることが確認された。アメリカでは一般的に見られていたリバーサル現象が必ずしも見られない点が大きな特徴である。またスキームごとに分析を行うと、(1)実施規模(東証1部企業では規模が大きいほどCARが高くなり、反対に新興市場企業では規模が大きいほどCARが低くなる)、(2)対象者(取締役など役員限定のほうがCARは高くなる)、(3)1円ストック・オプション(実施表明時には好意的な評価を受けるものの、具体的な内容が決まるとむしろ通常のオプションよりもネガティブな評価をうける)、などの結果が明らかになった。
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