近年、二酸化炭素(Co2)等に代表される温室効果ガスによる地球温暖化が大きな問題となっているが、これに対するひとつの解決手段として、温室効果ガス排出権取引が大きく注目されてきている。そして、こういった複雑で新しいスキームの利用をより活性化していくためには、当該スキームの経済的実態が適切かつ適時に投資家に開示されるような透明性および信頼性の高いディスクロージャー制度設計が重要となるが、しかし現状では、この点についての整備・運用が必ずしも適切になされているとは言いがたい。そこで本研究は、温室効果ガス排出権取引に係る諸制度のうち、特に、会計ディスクロージャー制度、および、その信頼性を担保する公認会計士監査制度に焦点を当て、これらの制度設計に関する基本的考え方を明らかにすることを目的とするものである。 2年間にわたる研究期間の初年度にあたる本年度は、主に、資料調査およびヒアリング調査等により全体像の把握を行った。すなわち、温室効果ガス排出枠取引に係るこれまでの研究(財務会計領域のみならず、経済学等他領域を含む)の資料調査を行うとともに、排出枠取引に係る国内の実務家や監査法人ないし研究者へのヒアリング調査を行うことで、次年度以降の分析の基礎作りを行った。 その結果、排出枠取引を巡っては、多くのプレイヤーが様々な意図をもち、かつそれらのプレイヤーが相手の行動を先読みしたうえで自らの行動を決定するというゲーム理論的な状況にあるという知見が得られた。このため次年度の研究においては、このようなゲーム的状況を取り込んだ上でのモデル分析ないしその検証を行う必要があるものと思われる。
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