本研究課題は、企業の経営者による会計上の収益認識基準の選択に関して理論的考察を行うことであるが、本年度は、その考察を行う前提として、会計の計算構造を、複式簿記の構造まで遡って検討した。特に、本研究課題においては、企業の経営者が会計上の選択を行う場合の一つの考慮要因としての企業価値ないし株主価値に注目することから、複式簿記と企業価値の関係について詳細な考察を行った。 会計情報は、証券市場との関係で見た場合、証券の価格形成のための基本的情報であると言え、様々な企業がある中、会計情報によって明らかにされる収益性等の差異によって、希少な資金の配分が証券市場で決定される。つまり、会計情報は、証券市揚において最適資源配分が達成されるために役立っている。この証券市場における最適資源配分と会計情報の関係をより詳しく理解しようとする場合、企業評価ないし企業価値評価という観点が浮かび上がってくる。このため、証券市場における会計の基本的機能を理解するためには、会計情報と企業評価の関係を理解することが必要不可欠であり、それは重要である。そして、企業の経営者による会計上の選択によって、企業評価あるいは企業の評価値が影響を受けるのかどうかを明らかにしないことには、より進んだ会計操作の検討は行うことができないと言える。そのため、まずはじめに、複式簿記と企業価値の関係について検討を行った。具体的には、会計の利益計算の構造と株主価値の計算構造を1つの枠組みに統合したモデルを詳細に分析し、一定の結論を得た。
|