日本における環境保全のための手法開発および企業実践は、現在に至る10年で大きく前進した。しかし、環境管理会計情報を利用して企業のマネジメントを実践する場合には、導入に伴う様々な課題がある。その結果、企業における内部利用を目的とした環境管理会計の導入および社内展開に成功する企業が存在する一方で、複数の企業で潜在的なコスト削減額の調査段階から先に導入が進まないことが問題となっている。そこで、本研究では、環境管理会計手法の導入および社内展開に関する企業実務を明らかにすることを目的とする。 本年度は、環境管理会計の手法開発に関連する文献をもとに理論分析を行った。さらに、製造業2社を対象とする事例分析を実施した。理論分析では、企業活動に伴う環境および社会的な外部性を対象とする持続可能性会計に関する手法開発の動向を明らかにするとともに、持続可能性会計の実践に関する理論的な課題を検討した。企業における環境保全活動とは、外部性を内部化することにほかならない。しかしながら、外部性の貨幣額による測定は多くの課題が指摘されており、その原因として測定技術の問題だけではなく、社会的及び政策的な観点からの合意形成という問題が内在していることを明らかにした。 事例分析については、環境管理会計手法の導入を通じてコストマネジメントに活用している企業が存在していることから、環境管理会計手法を導入した2社を対象に、手法を導入した経緯と、環境管理会計情報をコストマネジメントに活用するためのシステムに関する分析を行った。分析の結果、環境管理会計手法を利用したコストマネジメントを行っている企業は、経営トップ層の関与や業績評価への影響といった経営管理プロセスとの整合化を図っていることが明らかになった。
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