損益計算書において企業の経営成績などいわゆるパフォーマンス(業績)をどのように表示すべきであるかをめぐって内外で盛んに議論されている。 そこで平成19年度は、「業績とは何か」という問題に関わるこれまでの議論の動向を歴史的に検討することを通じて、業績報告問題の歴史的な位置について検討を加えた。とくに米国における動向について、1940年代の「当期業績主義」(current operating performance concept)対「包括主義」(all-inclusive concept)を巡る論争にまで遡って検討を加え、これまで利益概念や業績概念の問題がどのように論じられてきたのかを社会的コンテクストの中で跡付けることを通じて、経営者業績観と企業業績観という業績観をめぐる議論ないし(古くて新しい)論争の今日的な意義について論じた。そうした論争は米国や国際会計基準における議論においていぜんとして未解決のまま継承されていることを明らかにした。 同時に、経営者業績観と企業業績観という2つの業績観と管理可能性概念、実現原則さらにはリサイクリング(未実現保有損益の実現後における純利益計算への振替ないし再分類調整)との関係を整理しながら、純利益概念と包括利益概念の会計計算構造上の位置を整理するとともに、制度的な意味において、それらがどのような意味をもつ概念として提起されているのかについて、文献調査をもとに検討を加えた。 また、米国の会計基準設定機関である財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board : FASB)にて、ヒアリング調査ならびに資料収集を行い、いかに米国FASBが国内の有権者の意見を集約し、かつ、日本などの米国以外の国・地域を巻き込みながら意思決定をリードしていったかを知るとともに、会計基準設定における米国の競争優位性はどこにあるのかを知る上で重要なヒントを得ることができた。
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