平成19年度は、第一に、19世紀ドイツにおける音楽活動と教養の問題について、近年の研究成果を踏まえつつ、学会発表および論文執筆を行った。そこでは特に、音楽についての言論活動が、音楽の普遍的なイメージを補強する役割を果たしたことに注目しており、また、当時の議論がしばしば、実際の音薬作品の聴取体験とは離れた次元でなされていた点についても指摘している。そのことにより、音楽論というものは音楽体験に基づくもの、つまり音楽作品の内側からなされたものであるという素朴な前提からは、一度距離を置き、批判的に点検する必要があることを示唆している。これは、本研究の主題である「音楽の価値」を考察する上での、基本的な確認事項でもある。 第二に、平成19年度にはまた別の視点から音楽の価値について考察を行った。それは、音楽の価値の問題を、文化政策論の中に採用しようとしたものである。文化政策論については、急速に新しい議論が進められているが、公的支援の是非や方法については今なお様々な立場がある。そうした政策論の中では、公的支援自体がもたらす価値を論じる立場も重要である。この問題を扱った論文では、助成と芸術活動の活性化を論じた近年の研究をもとに、助成のあり方とその結果としての芸術の価値形成について、問題提起を行った。
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