平成20年度はまず第一に、前年度からの研究領域である文化政策面での考察を進めた。芸術文化への公的支援を求める文化政策論が多い中、その支援自体がジャンルの価値形成に寄与する公的承認の機能についての論考を論文として公表した。また、欧米の最近の研究成果に基づき、芸術音楽のビジネス化の可能性についても指摘した。これらの問題は芸術音楽研究においても、ポピュラー音楽研究においても重要な問題となっており、今後も現代的な課題として取り組む必要がある。 第二に、ドイツにおける音楽祭の資料調査に基づき、交響曲とドイツの関係についての考察を試論としてまとめ、研究会報告を行った。音楽祭イベントが始まった当初は、主として市民の自発的な活動と資金によって運営され、そのプログラム形成過程は交響曲というジャンルの概念にも大きな影響を与えたと考えられる。その際、ドイツ的であるという特殊性と、それを超越すると思われる普遍性が同時に強調されたことは注目に値する。そこには、相反すると捉えられがちな両概念が矛盾なく両立するものとして主張されていた一例を見出すことができる。ナショナリズム論で議論の対象となる特殊性と普遍性については、音楽の領域からも議論する価値がある。
|