平成21年度は、引き続き19世紀ドイツの音楽祭について、現地の資料を収集し、その分析を進めた。音楽史的な観点からだけではなく、社会学的観点から見れば、当時の音楽祭が地域住民の主体的な企画・催しであった点が非常に重要である。 歴史資料の調査と平行して、20世紀後半の日本における音楽祭についても調査した。そこでは近年特に顕著な傾向として、地元住民の主体的参加が音楽祭の特徴として目指されていることが分かる。19世紀ドイツの市民による音楽祭と、現在日本で実施されている音楽祭のあり方とは、文脈が違うにせよ、かなり類似した点があることは、これまであまり認識されなかった点であり、比較するに値する要素であると考えられる。 本研究は当初から、歴史的事象と現在の状況との比較を意図してきたが、その比較の目的は、あくまで芸術音楽の社会的価値形成の一側面を明らかにすることにある。音楽祭という催しの中で、担い手によって、あるいは聴衆によって、その価値がいかに保持されてきたかが、本研究の明らかにすべき一つの到達点である。この成果の一部は平成22年の国際学会にて発表する予定である(受理済)。
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