本研究の目的は、ネオリベラリズムと呼ばれる経済・社会体制の台頭が多民族・多文化化する先進諸国に与える影響を考察することにある。そのために、1970年代から多文化主義を国家理念としで掲げつつ、1980年代以降ネオリペラル改革が急速に進行した国家であるオーストラリアの事例研究を行う。 平成19年度には、まず先行研究の整理を行い、その成果を日本国内の学会・シンポジウムおよびイギリスで開催された国際シンポジウムにて発表した。また8月および2月にはオーストラリアでの現地調査を実施し、シドニー、キャンベラ、メルボルンなどを訪問して現地の移民定住支援施策のワーカー、市民活動家、および行政関係者などへの聞き取りを行い、まだ図書館、書店などでの資料収集を実施した。 以上のような調査研究で得られた知見をまとめ、本年度は1冊の編著、3本の学術雑誌論文をはじめとしていくつかの成果物を刊行することができた。こうした成果物は現地における調査・資料収集を基盤としつつ、社会保障政策の分析やエスニック・コミュニティを対象とした質的・量的調査といった多様な手法による分析を行うことで、ネオリベラリズムの台頭とともに「ネオリベラル多文化主義」と呼びうる理念・政策が出現し、それがオーストラリアにおける移民をめぐる社会状況に大きな変化をもたらしているプロセスを明らかにするという重要な研究の端緒をなすものである。以上のように、平成19年度は研究初年度にも関わらず調査および成果物の公表の両面で大きな収穫を得ることができた。
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