本研究の目的は、ネオリベラリズムと呼ばれる経済・社会体制の台頭が多民族・多文化化する先進諸国に与える影響を考察することにある。そのために、1970年代から多文化主義を国家理念として掲げつつ、1980年代以降ネオリベラル改革が急速に進行した国家であるオーストラリアの事例研究を行っている。 平成20年度には、前年度実施した調査から得られたデータを検討し、そこから移民定住支援サービスに関する興味深い変化の存在を立証した。それをさらに検討するために、08年7・8月および8-9月、そして09年3月の計3回にわたりオーストラリアで現地調査を実施した。現地では移民定住支援組織、エスニック組織、行政などの関係者への聞き取りを行ったほか、一般のアジア系住民家庭に伺い話を聞くなどの貴重な経験を得ることができた。また文献資料の収集もキャンベラの国立図書館を中心に積極的に実施した。 こうした研究成果をもとに、学会・シンポジウムでの発表および雑誌や図書の刊行を行った。とりわけ、1冊の共著を刊行できたことは大きな成果であった。これらの研究成果では、移民支援サービスの現場で起こっていた新自由主義的な「改革」のあり方や、それがもたらした影響を詳細に分析したが、新自由主義的「改革」よって露呈されたオーストラリア多文化主義の限界を乗り越える、オルタナティブの模索に関する構想も、こうした研究から得ることになった。このように本年度の研究は、今後の研究の方向性を導く重要な意義をもっていたといえる。
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