本研究の目的は、ネオリベラリズムと呼ばれる経済・社会体制の台頭が多民族・多文化化する先進諸国に与える影響を考察することにあった。そのために、1970年代から多文化主義を国家理念として掲げつつ、1980年代以降ネオリベラル改革が急速に進行した国家であるオーストラリアの事例研究を行ってきた。 平成21年度は、前年度までの研究成果を総合し、学術論文および著書として公刊する作業を行った。まず平成19・20年度の調査で生じた新たな課題を調査するため、オーストラリアでの補足調査を8月と3月の2回に分けて実施した。8月の調査では主にキャンベラで文献資料の収集を行ったが、アデレードのブリンダース大学のアンソニー・エリオット教授と有益な意見交換をすることもできた。また3月の現地調査ではシドニーで補足のインタビューを実施するとともに、チャールズ・スタート大学のジェーン・ミルズ教授と来年度以降の共同研究について話し合うことができた。 さらに研究成果を7月にオーストラリア、8月に韓国で行われた国際学会で報告し、各国からの討論参加者と有益な意見交換を行うことができた。そのほか国内学会等での報告3回を実施し、国内大学紀要に2本の論文を掲載した。このように平成21年度は研究成果を多くの機会で発表し、そこでの意見交流を単著の内容に反映させる機会をもつことができた。 こうしていよいよ研究の成果を単著としてまとめる作業に本格的に取り掛かった。出版社は法政大学出版局に決まり、21年度後半には原稿を順調に執筆することができた。担当編集者とのやり取りを経て、1月には原稿を入稿し、3月には初校ゲラによる校正作業に取り掛かることができた。現在、初校の校正作業を終え、22年半ばには公刊予定である。
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