研究概要 |
トヨタと日産でそれぞれ長期間働いてきた現場職制(経験者)に聞き取り調査を行った。長い間職場生活を送る中で経験し、身に付け、構築してきた、管理側と労働者側との関係、労働者同士の関係をうかがい、職場における統合と反統合の実態を明らかにした。本年度は、主に日産の従業員から話を聞いた。 日産は、1966年に旧プリンスと合併した。両社の組合の母体が異なったために、組合間で熾烈な対立が生じたが、その後、日産労組が旧全金プリンスの労働者を飲み込む形で現在に至る。合併当時の「第一組合」の動向については、これまで2, 3の研究者が検証してきたが、労働者の視点からみた、合併による現場への影響は全く明らかにされていない。そこで筆者は、その点に焦点を絞り、労働者から聞き取りを行った。 本年度は、彼(女)らが合併以後、どのような会社人生を送ってきたのかを克明に追い、とりわけ現場にていかなる「扱い」を受けてきたのかを語っていただいた。 1993年に経営側と旧全金プリンスとが'「和解」をするまでは、旧全金プリンスに所属し続けた労働者の多くは、仕事は制限され、教育機会は奪われ、職場の飲み会には参加させてもらえず、他の労働者から隔離された生活を強いられた。露骨に差別的な扱いを受けてきたのである。「和解」の後は、形式的には「平等」になったものの、わだかまりが完全になくなったわけではない。合併から40年以上が経ち、いまや旧全金プリンス所属の日産労働者は、ほとんど残っていない。日産全体において、彼らの直接的な影響力は限られたものである。だが、資本の論理による合併、日産労組、そして労労対立の「傷跡」は文化として生き続けている。
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