本年度の研究成果は、トヨタと日産の現場の「求心力」を養成工とキャリア形成の観点から比較検証した点にある。 トヨタの現場を強く統合してきた要因として、「トヨタ学園」卒は有名である。戦後直後の大争議に際して、養成工が中心となって労使協調路線へと転換する役割を果たし、今現在も、中卒から「トヨタマン」に育て上げられる学園卒が現場のリーダーとして活躍している。 ところが、このような養成学校は日産にも存在する。トヨタだけに限った話ではないのだ。日産も、設立直後に養成学校を建て、長らく中卒の生徒を育成してきた。しかし、80年代後半から、高卒入社を社内選抜し、学校へ送り込む方式へ変えた。中学卒業直後と高卒数年後とでは、主体形成の時期だけに、とりわけ企業イデオロギーの精神的な影響に大きな違いが現れる。 もちろん、トヨタでも、数からみれば、製造現場を支えているのは高卒技能員である。高卒進学率の上昇に伴い、60年代後半から、多くの高卒技能員を採用するようになった。 トヨタは、「モノづくりは人づくり」と標榜するように、高卒を中心とした長期雇用者に対する教育制度を充実させてきた。それは、先行研究が強調してきたOJTだけでなく、むしろOFF-J-Tの豊富さが目をひく。日産にも同じような教育制度が存在し、現場労働者のランクを上げながら技能・知識を高める制度が確かめられた。 しかし、日産の現場から昇進できるポストは、例外を除いて係長(トヨタの工長)までであり、トヨタは課長、次長、部長まで到達することができる。また、日産の末端職制は55歳には役職を解かれ、人によっては外に出される。このようなシステムは、現場労働者の「やる気」を大いに減退させる。
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