本研究は、日本とドイツを対象として、「成果主義化」と総称される今日の賃金決定ルールの変容とそれをめぐる労使紛争の実証的・理論的検討によって、昨今の賃金論における混迷状況を取り除き、変化をより的確に把握しうる視座を構築することを目指すものであるが、平成20年度においては、研究実施計画にもとづき、現代日本とドイツにおける賃金問題の実態についての分析を行い、それをめぐる諸紛争について検討した。 その結果 1 現代ドイツにおいて、90年代以降、グローバル競争の圧力のもと、従来の産別賃金交渉に対する不満が、とりわけ中小企業経営者のなかで高まり、賃金決定の分権化など、「ドイツモデル」に対する見直しが進んでいること。 2 現代日本において「成果主義」と称される人事・賃金制度の変容には、大きく年齢給・勤続給の廃止・縮小、格付け制度の再編、「個人業績」の反映一の要素に分解できる。これらにはそれぞれ固有の論理があるが、いずれも従来の日本における年功賃金規範を弛緩させる点を目的としていること。他方、成果主義の導入および運用については、労使間で争議、裁判などの紛争が生じており、それぞれ困難を抱えていること等が明らかになった。
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