研究概要 |
1910年の「韓国併合」以降,とくに1930年代以降に激増した朝鮮半島からの渡航者は,都市の底辺的労働を担いつつ大阪市生野区,兵庫県尼崎市,神奈川県川崎市等に集住地域を形成した。これらの集住地域においては,定住した在日コリアンの高齢化が進行するに伴い,1990年代後半以降,在日コリアンノエスニシティを尊重する福祉実践が展開され始めた。 平成19年度の本調査では,社会福祉法人大阪市社会福祉協議会が運営する「大阪市生野区老人福祉センター」、NPO法人サンボラムが運営する「生野サンボラム」、特別養護老人ホーム「故郷の家」等を訪問し,それぞれの担当者からご協力を得てヒアリングを行った。「生野サンボラム」のヒアリングでは,利用者負担が増加しても,地域における必須の居場所として利用者が訪れている,またデイサービスからベルパー派遣へと移行する利用者が多い等,在日高齢者が抱える生活問題のさしあたりの対症療法として,サンボラムの事業があるとの貴重なご教示をいただいた。 2008年2月末,「故郷の家」の集会所はひな段が飾られていた。日本の生活様式を取り入れながら,民族的ケアを実践するという方針は,「梅干とキムチのある老人ホーム」という標語に集約されているが,十字架とひな段とチョゴリ姿の写真が並ぶ光景からも見てとれる。入居者の7割が在日コリアンである。スタッフは30名在籍し,うち4名が在日コリアンで韓国語でのコミュニケーションに優れている。日本人スタッフの場合は、在日コリアンの入居者が通訳として助ける場合も多いという。堺市「故郷の家」の場合,待機者は多くなく,生野区近辺の集住地域から遠いという地理的条件が影響しているのではないかという。2001年に開所した「故郷の家・神戸」は待機者が多い。集住地域である大阪市生野区には,1994年,介護サポニトセンター「故郷の家・大阪」を開所し,介護保険事業を行っている。
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