本年度はまず、本研究の第一の課題として、過去に行われてきた「暴動対策」の現場における評価を明らかにした。1990年代初めから政府主導で進められた暴動対策は、失業対策などの社会統合政策と、警察による取締りの強化・厳罰化を二本の柱にしていた。これらの政策が地域社会でどう受容されているのかを検討するため、パリ北部セーヌ・サン・ドニ県の行政・教育関係者、地域で活動するNPO関係者、また同県の公営団地自治会メンバーと住民に対して聞き取り調査を行った。そこで明らかになったのは、地元の住民や関係者が政策に一定の評価を与えつつも、政策が始まる以前から現場で草の根的活動を続けていた地域アクターの経験や声が政策にほとんど反映されなかったことに対して強い不満と苛立ちを覚えていることだった。政府が地域のアクターを、自らが定めた政策の下請け的に実施するものと位置づけたことも、地域アクターの反発を引き起こした。その結果、地域社会の核となるアクターと、行政の連携がほとんど見られなかったことがわかった。 また第二の課題である、地域のアクターが構成するネットワークを明らかにするため、2005年末に形成されたネットワーク「レゾー・93」に参加する団体やアクターに、ネットワーク形成の経緯と機能について聞き取りを行った。現場での活動を続けてきたアクターたちは、2005年の暴動勃発後に、個別で行う取り組みの限界を再認識し、よりグローバルな形で問題に対応するためにネットワークを形成した。二月に一回ミーティングが開かれ、共同アクションの方向性をめぐって議論が続けられている。ネットワークを構成したことで、以前より行政への働きかけが効果的になったという利点のある一方、ネットワークを構成する三十あまりの多様な組織間には、世代間や問題意識のズレも見られ、それをどう乗り越えるかが課題となっている。
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