本研究は、ポスト「2005年11月」の現場で見られる新しい動きとして、パリ郊外における「地域のNPO・団体間のネットワーク」の構築と地域コミュニティにおけるその機能の分析を以下の三点を中心に行った。一点目は、過去の「暴動対策」の問題点と限界の現場における評価の再検討である。2007年夏に行った調査では、従来からの社会統合政策や防犯対策の制定において、現場で草の根的活動を続けてきたNPOはあらゆる決定から排除され、行政と地域アクターの連携がなかったことがわかった。二点目は、2005年11月以降の地域ネットワークの実態の検討である。2008年春および夏の調査では、パリ郊外セーヌ・サン・ドニ県では個別の取り組みの限界を再認識した地域のアクターが構築したネットワーク「レゾー・93」によって、地域アクターのよりグローバルな形での問題への対応が可能になり、また行政にもより効果的に働きかけられるようになったという一定の成果が確認できた。三点目は、この地域ネットワークの機能と成果、また課題、困難の検討である。県の外郭団体や移民の同胞コミュニティなどの従来型組織と、イスラーム団体などの宗教団体との連携関係の基盤はきわめて脆弱であり、家族や教育などのトピックスに関してネットワーク内部でのコンセンサスの形成が深刻な困難に陥ることもあるという問題点が明らかになった。ネットワークの形成が個々のアクターや団体に及ぼした具体的な影響に関しては、従来型の団体に関してはデータが集まったが、若者主導型の団体や宗教団体については、組織自体の不安定さという問題もあって比較検討を行うだけ十分なデータが集まらなかった。これを今後の課題として、調査を継続し分析をすすめていきたい。
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