1981年以降公的保育の一つとして存在してきた親保育所(通称)は、2001年8月1日デクレによってcreche a gestion parentaleとして正式名称が与えられ、初めて法令上規定されることになった。これにより、保育の多様化に対する社会的ニーズを経て、多機能施設へと経営形態を変更するものが散見される。そのような中で2007年9月に新しく誕生したフランス・アルザス地方の保育所にて、参加する親を中心とした聞き取り調査を行った(2008年7月)。 前年度の調査では職員の聞き取り調査の分析から、専門分化や役割分担がはっきりしており、職員と親は保育所の存在や保育機能を通した間接的な関係にあり、共有している知識や情報の内容が同じであるという暗黙の信頼・情緒的な共感によらない関係性が特徴的であり、保育という専門性における職員一親の関係性と、雇用における関係性が逆転することによって対等な関係が維持されることが指摘された。 一方、今年度行った調査では、職員の裁量が大きい場合、職員と親とのコミュニケーションが希薄になり、職員が子育てに関する情報を独占しがちになり、親の運営に対する関与度が減退するリスクとの緊張関係が少なくない。こうした傾向は設立当初の施設では観察されないが、施設の継続に伴う問題であると認識されていた。「継続性」は信頼という互酬性を高めると同時に、親の主体的な活動意欲を曖昧にするものでもある。参加する親たちは、保育を通して将来的な多文化を含めた他者との共生社会に意識的に参画する点や、地域から孤立しないためにも、親保育所は重要であると指摘しているが、現実的には、入所数が少なく、入所は面接等によって選別されているため、幼稚園ほど社会的な多様性を含む状況にはない。また、親と保育関連の有資格者(職員)だけが参加できる施設であり、日本の子育て支援センターのように地域に意識的に開かれているわけではなく、親同士の交流の時間はあまり確保されてはいない。
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