近年、ボランティアによる自主防犯パトロールや子どもの登下校時の見守り活動、あるいは近所どうしの声かけ運動などを通じて、地域防犯をめぐる人々の行動変容や組織化が進展している状況が顕著であると考えられる。だが、その実態や地区別の相違の程度については、研究が不足しているといえる。 従来、防犯や犯罪予防は、実際の犯罪水準の現象や将来の犯罪増加の予防という考えにとどまることが多かった。これに対して、Lab (2006、訳書)は、犯罪予防とは、実際の犯罪水準や知覚された犯罪不安を減少させるために企図された対策全てを指す、と定義している。地域防犯をめぐる問題を社会学的に捉える上で、犯罪予防とは知覚された犯罪不安を減少させるために企図された対策を含むという定義は、急速に重要な意味を持ち始めているといえる。しかしながら、市民の犯罪被害防止活動を基軸とする、近年のこうした人々の行動変容や組織化といった状況が、広義の犯罪予防との関係においてどのような布置状況にあるのかを検証した研究はほとんど皆無である。 本研究では、地域住民の相互扶助(互助)にもとづくパーソナルな基盤を新たに射程に入れて、その実態や犯罪被害の防止機能との関わりを明らかにする。さらに、社会的な結びつきの強さや社会統合と犯罪予防との関係について検討を試みる。 本研究は3カ年の計画であり、本年度はその2年目にあたる。本年度は住民調査等の結果を分折中である。基礎的な分析により、個人が取り結ぶ紐帯と犯罪不安との間に有意な正の関係が見られること、被害に関する情報接触などがその関係の間に介在している可能性などが示唆された。国内外の先行研究もふまえて、さらに分析と考察を深めていくこととしたい。
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