本研究は、発展途上国における貧困の世代的再生産の構造を、インド・ウッタルプラデシュ州Varanasi市における子どもの育ちについての聞き取り調査を通じて明らかにすることを目的としている。 研究の最終年度である本年度は、以下、三つの作業に取り組んだ。(1)19年度に実施した聞き取り調査の継続、(2)収集したデータの整理・分析、(3)分析結果をふまえた研究成果の公開、である。調査は、20年12月から21年1月にかけてVaranasiを訪問し、<富裕層><庶民><貧困層>に位置づく数家族(20歳前後の若者とその親)を対象にした聞き取り調査を計画・実施した。聞き取りの大きな項目は昨年と同様、家族の所得、学歴、言語環境といった家族の諸資源、子育てや学校選択などにあらわれる教育行動、奨学金制度の利用実績や教員との関係性などにあらわれる学校教育制度との関わり、の三点である。昨年の調査では、必ずしも親と十分に接触できなかったこと、また事例数や聞き取るべき内容について十分な量に達しなかったという課題があったが、このたびの調査では、後者の課題については克服できた。ただし、親との接触は当初のねらい通りには進まなかった。調査終了後、結果の整理・分析をすすめた。分析の結果からは、Varanasiでは教育を通じた貧困の世代的再生産が明瞭に確認されること、またそのメカニズムにはVaranasi独特の学校教育制度や労働市場のありようが密接に関わっていることが明らかになった。この結果は、21年3月に北海道大学大学院教育学研究科における研究会で報告をした。
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