本研究は、いわゆる「ホームレス」という不定住的貧困の存在形態に関わり、地方部、とりわけ農漁村地区における人々の生活と不定住的貧困との関係に焦点をあて、わが国の「地方部における不定住的貧困(=ルーラル・ホームレス)」の具体像を明らかにし、実のある支援システムを構築するための地方部における独自なニーズを発掘し、今日における貧困実態の具体的な把握に貢献することを目的としている。 平成21年度は、補足調査の実施とこれまで行ってきた調査研究の総括にあたった。 補足調査としては、盛岡市において、現在野宿生活を経験している人に対する生活実態について、半構造化面接法による聞き取りを平成21年10月に行った。9名から聞き取りを実施し、同年3月実施の青森における居宅生活者の実態調査結果からの知見と比較を行うための資料となった。これまでの調査研究によって明らかとなった主要な知見は以下のとおりである。 すなわち、これまでは「出稼ぎ」として捉えられてきた労働力移動経験が、今日の全体に占める不安定就業の拡がりの中で、現在では日本の高度成長を支えたそれとは異なっている可能性があり、そのことが地方部における不定住的貧困の出現に影響を及ぼしているということである。一つは「出稼ぎ」が前提としている回帰場所の喪失である。例えば、地元に回帰することを前提に稼ぎに出かけたものの、地方経済社会の疲弊に直撃され、かつては生活困難を緩衝しえた家族役割の脆弱化を背景として、いざ地元へ戻ると自らの「居場所」たる家族等が喪失してしまっていることを経験する人々が一定数いることが明らかとなった。そしてこうした人々が、地方都市において野宿や路上生活をおくる不定住的貧困を構成している事例が無視しえない割合で存在するということが明らかとなった。これは、大都市部とは異なる地方部に固有の出現様式といえ、これまで詳らかにされてこなかった知見といえる。
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