本研究は、児童福祉領域における、子どもの利益代理の必要性を明らかにした上、子どもの利益代理に当たっての基本原理および子どもの利益を代理するための具体的な制度保障のあり方等、子どもの利益代理制度創設のための基礎的条件を解明することを目的としている。本年度は、児童養護施設における子どもの利益代理の問題について、児童養護施設で起きた体罰損害賠償事件を素材として検討を行った。この研究で明らかになったことは、通常未成年者の利益代理は、法定代理人である親権者が行うが、多くの施設入所中の子どもの親権者は実際的には法定代理を行使できない状況にある。ところが、法制度上は、親権剥奪宣告を受けない限り法定代理人は親権者であるので、養護施設の子どもの法定代理に関して、欠缺が生じる可能性がある。施設における体罰被害を、子どもが再三、県の福祉局や児童相談所に対して訴えていたにもかかわらず、被害をまともに取り上げてもらえなかったのは、子どもの意見表明の軽視と同時に、正式な法定代理人が不存在であったことも理由として指摘できる。また、権利侵害に対する最終的な救済手段である訴訟を提起する場合であっても、未成年者は、法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができず、施設に入所中の子どもは訴訟遂行さえ阻まれている状況にある。また、民事訴訟法上、民法上の法定代理とは区別された訴訟上の代理人制度が存在するが、この制度は民法上の法定代理権を行使しえない場合であって、遅滞のため損害を受けるおそれがある場合という例外的な条件において適用され、さらに原則的には、訴訟無能力者を被告とする場合の制度であることから、児童福祉領域への適用についてはなお乗り越えなければならない課題を残していることが明らかになった。
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