昨年度は、これまで実施した調査データをもとに、知的障害のある人の自己決定の構造と、それに関連する要因について統計的な手法により分析した。詳細については、「11.研究発表」に記載の2つの学会誌掲載論文で報告している。まず、自己決定の構造については、因子分析の結果、5つの因子で構成されることが明らかとなった。また、基本属性との相関分析においては、年齢および障害程度区分についてはほとんどの自己決定領域において相関を見せた。一方、在所年数については、日常生活活動および知人や友人の往来に関する領域などにおいては負の相関を見せた。また、関連する要因のひとつである施設規模については、重回帰分析の結果、上記5つの自己決定領域すべてに関連を見せている。つまり、施設規模が大きくなればなるほど自己決定が抑制されることが明らかとなった。ただ、唯一「友人・知人の選択および共有時間に関する自己決定」については、大きい施設規模のほうがその自己決定が高まる結果となっている。 加えて、上記の調査および分析をもとに、知的障害のある人の自己決定研究に詳しいカンザス大学のアベリー博士等を訪れインタビュー調査を行った。また、知的障害福祉では先駆的な取り組みを行っているミネソタ州において、知的障害のある人のセルフ・アドボカシー団体や支援団体を視察した。これらの調査をもとに、知的障害のある人の自己決定とそれに対する支援に関して、文化的な背景の違いから自己決定を捉える範囲が異なること、また同時に共通した点もあることなどが明らかとなった。 今後、これまでの研究結果をもとに、さらに調査データの統計的分析を進め、そして今年度実施予定の知的障害分野におけるケアマネジメント従事者へのフォーカス・インタビューにおける結果を総合的に考察し、知的障害のある人の自己決定とその支援について現実的な方向性を示したい。
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