2008年度は当事者の立場からコミュニティ実践をおこなっている在日コリアン実践者、中でもNPO法人京都コリアン生活センターエルファに焦点をあてインタビュー及びフィールドワークをおこなった。その結果、まずエルファだけでなく多くの在日コリアン実践者の原点に日本社会がもつ制度的および非制度的な排除を正面からうけてきた被差別体験があり、権利を自己獲得せざるを得なかった状況が東九条の脈絡の上で改めて明らかになった。これに対し京都府下最大の在日コリアン集住地である東九条においては1950年代より民団および総連が小学校区より細かな町内レベルに分会を組織化し、識字活動や特に生活が厳しい世帯への支援などの地域ベースドな相互扶助活動をおこなっていた。エルファではこれらを底流としながら1990年代以降課題となった在日1世の介護問題に対して以下のような意味を持つ実践をおこなっていることが明らかになった。まず(1)"ウリ(私たち)"という当事者コミュニティによる介護を通して在日コリアン高齢者の尊厳とアイデンティティを取り戻していること、(2)無年金訴訟の支援を通して在日コリアンの尊厳を回復するためのソーシャルアクションをおこなっていること、(3)在日コリアン高齢者を在日コミュニティの中の社会的・歴史的存在としてとらえ、新たな在日コミュニティを模索していることである。これまでの日本社会の中で様々な排除をうけてきた在日コリアン高齢者が、脅かされた尊厳・アイデンティティを取り戻し、在日コミュニティの源とする多面的な包摂活動をおこなっているともいえる。また、その一方で在日コミュニティが東九条の公的コミュニティに正式に位置づけられないという課題もあるが、活発な福祉学習・交流の拠点となっていくことによって、東九条の福祉コミュニティ形成および京都市の多文化共生のまちづくりに貢献していることも明らかになった。
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