研究概要 |
集団間での協力・信頼関係の形成について検討するために、第一に加害者に対する信頼と寛容が自動的に喚起される過程について検討した。特にそれは加害者が内集団成員と外集団成員との違いによってどの程度異なるのかを検討するために、日本とオランダ(Radboud大学Nijmegen校,Johan Karremans准教授との共同研究)にて実験を行った。実験参加者は被害場面のシナリオ読み、その後寛容に関する概念が思考の中で活性化している程度を測定した。その際に、加害者の国籍を自国民と外国人とで変えた場合に、寛容さや信頼にどのような違いが生じるかを測定した。結果は現在分析中であるが、日本人はオランダ人に比べて、内集団への同一化が弱いときには比較的寛容であるという結果が得られた。もう一点、集団間協力を阻害する要因として非合理的判断の心理過程についての研究に着手した。合理的に考えれば他集団と協力関係を築いた方が良いことは分かっているのに、人々はそのような決定が下せないことがある。それは内集団を大事にしなくてはいけないという道徳が、合理的な判断を阻害するからである。そこでそのような非合理的な判断の心理について、道徳的ジレンマ状況と、そのようなジレンマを克服する心理的要因としての「権力」に注目し、オランダ・Utrecht大学のKees van den Bos教授と共同で心理学実験による検討を始めた。その結果、権力意識を強めると、人々は非合理的な判断を抑制し、合理的な判断を行いやすくなること、またこれは意識的にそのような状態になったときだけではなく、本人が自覚していなくても、合理的判断が促進されることが明らかになった。今後は、このような合理的判断を促進する心理的メカニズムについて神経科学的な面からも検討し、集団間の協力と信頼形成について解明する。
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