集団間での協力・信頼関係の形成について検討するために、それらを阻害する要因としての集団同一化に注目し、実験室実験にてその効果を検討した。具体的には分配的公正、手続的公正という二つの社会的公正が集団同一化を強め、それが集団間葛藤を激化させる過程について検討した。その結果、社会的公正及び集団同一化は外集団への否定的態度を強め、それによって外集団に対する信頼や協力的態度の形成が困難になることが明らかになった。 また本年度は東京都民450名を対象とした社会調査によって、申請者がこれまで行ってきた実験室実験の生態学的妥当性を検証した。特に集団間の協力関係を阻害する要因としての集団同一化のどのような側面が強い悪影響を及ぼしているかを検討するために、日本国民としての同一化を「愛国心」と「ナショナリズム」の二つに分け、集団間関係に対する両者の影響の違いを検討した。なお社会的公正の測度は国内の知覚された公正さを用い、日本はどの程度公正な社会であると思うかといった項目で測定した。ナショナリズムと愛国心に関してはKarasawa(2002)のNational identity尺度を用いた。そして国際的不公正感に関しては日本が諸外国から不当な評価を受けていると思う程度を測定した。また外国に対する態度として中国に対する態度を測定した。その結果、国際的不公正感は中国に対する否定的態度を強め、また協力や信頼感を弱めることが示された。ただし国際的不公正感はナショナリズムによってのみ強められ、愛国心は無関係であった。この結果は申請者のこれまでの研究モデルと一致するものである。
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